top of page

                                                                                                                                                 2015 年 9 月 30 日

 

                    「安保法制」の「成立」に抗議する宇都宮大学教員有志による声明

 

    安全保障関連法案(「安保法制」)が9月19日未明に「可決成立した」と主張されています。しかし、私たちは以下の理由から、「成立」そのものを容認できません。安倍政権とこの法案に賛成したすべての国会議員に対して、強く抗議します。

 

1.最高法規の無視

    この法案は、憲法違反です。安倍政権は、「安保法制」の合憲性の根拠として、砂川事件最高裁判所判決を挙げています。しかし、この主張がまったく筋違いであるということは、多数の憲法学者、元内閣法制局長官、元最高裁判所長官が明言しました。

日本国憲法第98条1項は、「この憲法は、国の最高法規であって、その条規に反する法律、命令、 詔勅及び国務に関するその他の行為の全部又は一部は、その効力を有しない」と規定しています。つまり、憲法違反の法案を「可決成立した」と主張することは、「最高法規を無視する」と宣言したに等しい、ということです。

    このことは、法治国家の土台を破壊する危険性を持つばかりでなく、権力者が望みさえすれば、どんなに憲法違反の法案であっても、そしてどんなに私たち一人ひとりの暮らしに関わる重い法案であっても、成立させられかねない、ということを意味しています。これからの日本社会にとって、極めて憂慮すべき事態です。

 

2.法的手続きの無視

    9月17日の参議院特別委員会における「採決」の手続きには、重大な問題点があります。この日の同委員会では、横浜で実施された地方公聴会の報告、総括、質疑も行われないまま、突然、法案や付帯決議の「採決」が強行されました。また、その際の速記録には「聴取不能」としか書かれていませんでした。それにもかかわらず、「可決成立した」と主張することは、その正当性に大いに疑問が残ると言わざるをえません。

    なぜなら、参議院規則は、次のように定めているからです。「議長は、表決を採ろうとするときは、表決に付する問題を宣告する」(第136条1項)。「議長は、表決を採ろうとするときは、問題を可とする者を起立させ、その起立者の多少を認定して、その可否の結果を宣告する」(第137条1項)。「会議録には、速記法によって、すべての議事を記載しなければならない」(第156条)。

政権与党は、法案の「採決」にとって必要なこれらの法的手続きをすべて無視しました。そして、なぜそのように「採決」を急ごうとするのかについても、何一つとして説明しようとはしませんでした。「良識の府」とされる参議院において、このような違法行為がまかり通ることに強い懸念を表明します。

 

3.説明の不足、答弁の矛盾、議論の拒否

 安倍政権は、衆議院、参議院のいずれにおいても100時間以上の審議時間を設けたことを理由に、「審議は尽くされた」と主張しています。しかし、この主張は全く説得力をもちません。

 安倍政権側から答弁に立った政治家たちは、数多く寄せられた質問に対して、誠実に説明責任を果たしたとは言えません。数日前の発言を取り消したり、明らかに矛盾した内容を述べたりするなど、説得力のある答弁が示されることはありませんでした。衆参合計で44回の委員会審議中に、225回もの中断が発生したことは、そのことを裏付ける明白な証拠です。そもそも安倍政権による法案提出の仕方がどれほど強引であったかは、第一回目の声明で指摘した通りです。

 この間、首相補佐官の口からは、「法的安定性は関係ない」という暴言が飛び出しました。また、政府関係者たちは、「法案が成立すれば国民は忘れる」、「国民の理解が得られなくても成立させる」などとも公言してきました。

 このような態度は、事実上、議論そのものを拒否しているに等しく、言論による説得を旨とすべき国会の場を著しく軽んじるものです。国権の最高機関において、これほどまでに言葉が軽んじられているという現実は、それだけで危機的です。

 

4.国民の声の無視

    第一回目の声明でも述べたように、「安保法制」については多くの反対意見がはっきりと表明されてきました。各紙の世論調査では、法案への反対意見が過半数を超え、「政府による説明不足」を指摘する声が8割を超えました。全国の学者たちによる反対声明が相次いだばかりでなく、日本各地で抗議のための集会が開催されてきました。特に国会議事堂前では、連日のように反対を表明する人々が数万人単位で集まり、8月30日、9月14日には、車道を埋め尽くすほどの規模に達しました。9月15日の中央公聴会の公述人に応募した95名全員が、「安保法制」に反対を表明していたことも、記憶に新しいところです。

    これほどまでの反対世論の高まりは、近年の日本政治には見られなかった現象です。そこには、「自分や周囲の人たちが戦争の当事者になるかもしれない」という率直な不安が表れていると言えるでしょう。第一回目の声明でも述べたように、そのような不安は決して無根拠なものではありません。

中央公聴会に出席した公述人の一人が指摘したことですが、審議期間を異例の9月末まで延長したにもかかわらず、国民の同意が得られなかった以上、法案は明らかに「廃案」にすべきでした。

 

    なお、「安保法制」の運用にあたっては、国会における事前または事後の承認が「歯止めになる」という指摘もあります。しかし、安倍政権による今回の国会運営は、国会そのものの信頼性を失墜させるものとなりました。

   主権者である国民の投票によって国会議員に選ばれるということは、「全権委任」を意味していません。政治家の言動は、常に最高法規としての日本国憲法によって拘束されていなければなりません。その基本中の基本というべきルールが踏みにじられていることに、私たちは改めて強い危惧を表明します。

 

 

 

bottom of page