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 本書は、集団的自衛権、憲法改正、そして今後の安全保障の在り方という三つのトピックを扱っている。それは、集団的自衛権の行使容認論を批判的に検討するうえで、この三つの問題の関係性を確認することがいかに重要であるかを示すためであろう。

 第Ⅰ部は、国際政治論・外交史を専門とする豊下楢彦が執筆を担当。イラク戦争、日米安保条約、歴史問題、ミサイル攻撃、尖閣問題等のキーワードと関連づけながら、安部政権が集団的自衛権の行使容認を国民に認めさせるために「最悪のシナリオ」を喧伝している問題と、その内容の非現実性が指摘されている。第Ⅱ部は、憲政史を専門とする古関彰一が担当し、2012年の自民党憲法改正草案に至るまでの自民党等による憲法改正論が、「軍隊の合憲化」や「人権制限」を一貫して追求してきた流れを確認している。そのうえで、現代の日本において語られている「国防軍」や「国家安全保障概念」が、国家間における総力戦中心の旧態依然たる安全保障観を前提としている問題を明らかにしている。

 最後に第Ⅲ部では、日本が果たすべき国際的役割について、日本国憲法の諸原則を軸とした新たな方向性を提示している点も興味深い。武器輸出三原則の撤廃が日本版「死の商人」を生み出すことに警鐘を鳴らし、経済社会や地球環境問題などの国境を超えた「複合不安」から脱却するための人間中心的な安全保障観への転換を求める議論は、今後の社会を構想していくうえで参考になる。(N.S.)

豊下楢彦・古関彰一『集団的自衛権と安全保障』岩波新書、2014年

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