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辻村みよ子『比較のなかの改憲論 ―日本国憲法の位置』岩波新書、2014年

 2012年12月の安倍晋三政権成立以降、「憲法改正」が声高に叫ばれるなか、日本国憲法を他国の憲法と比較すると「日本国憲法は特殊で現実的ではない」から改正すべきだ、という、比較憲法の視点からの改憲推進論がくり返されてきた。すなわち、「日本だけが憲法改正のハードルが高すぎる」、「ドイツでは50回以上改正しているのに、日本だけ改正していないのはおかしい」、そして「米国に押し付けられた憲法だから改正すべきだ」というのである。
 本書は比較憲法を専門とする著者が、これらの議論を受けて、特に重要だと考えた論点について、世界各国の憲法と比較しつつ、比較憲法の視点からの改憲推進論だけでなく、2012年に示された「自由民主党 日本国憲法改正草案」の問題点を一つずつ明らかにしていく。
 改憲手続が日本だけ厳しいというのは本当だろうか、憲法を擁護するのは「国民の義務」なのだろうか、現在の憲法は米国を中心とした占領軍内部だけの考えで作られたのだろうか、「国民は個人として尊重される」(日本国憲法第13条)と「全て国民は人として尊重される」(自民党・日本国憲法改正草案第13条)の違いは何か、第9条の戦争放棄は日本だけが採用する非現実的な立場なのか、憲法改正手続の最後の段階である国民投票制度に問題はないのだろうか等の論点を考える際に必要な知識がこの1冊で身に付くだけでなく、読者ひとり一人が立憲主義や憲法の歴史的な意義を考えるきっかけを与えてくれる。憲法改正が2016年7月の参議院選挙の公約となることが明らかになった今、ぜひ手に取っていただきたい良書である。(N.S.)
 
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